山口地方裁判所 昭和27年(行)1号 判決
原告 田村チヨ
被告 徳山市長
一、主 文
原告の請求は棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が原告に対し徳山市幸町三千二百二十六番地所在別紙図面記載の建物について、昭和二十六年七月二十四日付移転命令に基き同二十七年二月十八日なした代執行命令はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求原因として、被告は昭和二十六年七月二十四日特別都市計画徳山土地区劃整理に伴う換地予定地指定処分に基き原告所有の徳山市幸町三千二百二十六番地所在の別紙図面記載の建物に対し移転命令を発し、次いで同二十七年二月十八日右建物移転の代執行命令を発したが、(一)原告は右換地予定地指定処分に対し目下訴願中である。(二)移転補償金額及び支払方法は確定していない。(三)本件建物は道路に面してはいないから交通の妨害とはならず、且隣接建物との間には二尺位の空地間隙があつて人の通行にも支障がない。(四)原告は右執行によつて償うことのできない約百万円の損害を蒙る。の理由により右建物の移転を急速にしなければ著しく公益に反するものではなく、又代執行によらなければ将来の執行が困難となる事情もないから行政代執行法第二条所定の要件を欠く違法な処分で取消さるべきものであるので、その取消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、被告が特別都市計画徳山土地区劃整理に伴う換地予定地指定処分に基き原告主張の建物につき原告主張の如き移転命令を発し、次いで原告主張の日に原告主張の如き代執行命令を発した事実及び原告が訴願を提起している事実は認めるが、その余の事実は争う。原告所有の徳山市幸町三千二百二十六番地宅地百十七坪は第一次換地予定地区内に存在するので、昭和二十三年六月一日徳山市告示第二十九号をもつて換地の発表をなすと共に原告に通知し図面閲覧の機会を与え、換地予定地をブロツク二十一C街区十二番八十坪に指定し昭和二十四年十月九日原告に送達した。然るに原告は右換地予定地指定後昭和二十一年勅令第三百八十九号戦災復興土地区劃整理地区内建築制限令の規定に違反し、計画道路上に平家建店舗十二坪の無届違反建築を敢行したのみならず、同二十四年四月頃換地の杭打標示をなしたがその頃平家建二十一坪の家屋の無届違反建築をなし、当時山口県土木部建築課取締官及び徳山市建築係員が屡々これを制止せんとしたが応じなかつたので、同二十五年一月徳山都市計画委員長から換地指定地以外の地上建物の取り除きを勧告したが、之にも応じないので訴外山口県知事は遂に同二十六年一月五日午前十時代執行をなすべき執行命令を発した。然るに原告は執行を阻止したので換地区域を指示し、換地予定地内に任意除却移転せしめることとしたが、原告は故意に右建物を移転する際その建物の一部が隣地訴外岩崎利江の換地予定地内にはみ出るようにその移転をした。よつて被告は右訴外岩崎の換地予定地上の原告所有の建物を除却移転せしめる要があるので同二十六年七月二十四日付で、同年十月三十一日までに撤去すべき旨の移転命令書を交付し、同年十一月七日、同月十五日までに撤去しなければ代執行をなすべき旨の戒告書を交付したが、之に応じないので遂に代執行命令を発するに到つたものであるから、原告が本件代執行の取消を請求し得る理由は毫末もない。
尚本件代執行により除却せんとする建物の部分は幅三尺にして坪数にして六坪余りで、原告の営業や居住に支障を生ずることはなく且原告の換地予定地は八十坪であるが、同地上に建坪六十坪の建築物を存し建築基準法第五十五条の規定による七十パーセントを超過する建物があることから論じてもその除却を求めることは不当でない。しかうして本件建物は無届違反建築物であるから、その除却に対して補償すべき義務は被告にはなく、又本件建物所在の土地附近は相当繁華な商店街であるので、原告換地の隣接者訴外岩崎は換地予定地の使用を千秋の思いで待望している事情にあり、若しこれが取消された場合は一切の都市計画は水泡に帰する虞れがあり紛争が絶えないことになるから速かに原告の請求を失当として棄却されることを希むと述べた。被告は訴外岩崎と原告との間に種々斡旋を試みる等尽すべき手段を尽した結果本件代執行に及んだものであると附陳した。(立証省略)
三、理 由
被告が昭和二十六年七月二十四日特別都市計画徳山土地区劃整理に伴う換地予定地指定処分に基き原告所有の徳山市幸町三千二百二十六番地所在の別紙図面記載の建物に対し移転命令を発し、次いで同二十七年二月十八日右建物移転の代執行命令を原告に対し発した事実は当事者間に争いがない。
本件代執行が違法であるか否かについて判断するに、真正なる公文書と推定する乙第六号証と証人佐藤房一の証言によれば、昭和二十六年十一月七日代執行をなすべき旨の戒告を原告になした事実及び本件建物の存在する地区は徳山市第一次換地地区で昭和二十六年度内に換地予定地指定を結了する予定であるところ、本件建物を除却しなければ原告と日時を前後して指定処分をなした隣接換地予定地所有者はその土地の使用収益をなし得ない状態にあつて、そのため右隣接地に隣接又は相関関係を有する六筆の土地の換地予定地指定処分をなし得ない事情にあり、特別都市計画事業の遂行上重大な支障を来すものでそのため被告は原告とその隣接者等との間に種々斡旋を試みたが解決を見ず、原告は依然として本件建物の除却移転をなそうとしないので、遂に止むを得ず代執行命令を発した事実及び本件建物は約六坪にすぎないので、原告の営業又は生活に大なる支障を来すものでない事実並に本件建物を換地予定地内に移転せしめる際、予定地域を指示してその地域内に移転するよう命じた事実が認められ、之に反する証人田村定夫の証言は措信することができないし、又他に右認定を覆すに足る証拠はない。そもそも特別都市計画は戦争で災害をうけた市において、交通、衛生、保安、経済等に関し永久に公共の安寧を維持し、又は福利を増進するための計画であり特に主務大臣が指定する事業で公共性の強いものであるから、その計画を予定通り進捗せしめることはその事業の目的上重要且緊急でなければならない。
しかして本件建物が昭和二十一年勅令第三八九号に違反した無届違反建物であることは原告の明らかに争わないところであつて、違反建物は同令により除却すべきものであり、且原告はその違反建物を自己の換地予定地内に移転する際その換地予定地を指示されたにかかわらず、訴外岩崎利江の換地予定地内に本件建物をはみださせて移転したもので、右勅令第三百八十九号第五条により無届違反建物は原状回復すべきものでその除却に関する損害には求償権がなく従つて本件建物の移転に際しても補償する要はなく、同建物を除却されたことにより原告の蒙る損害はその補償を求め得ないことに帰するし、又原告は被告の換地予定地指定処分に対し訴願中であるとしても、被告が換地予定地指定、移転命令、戒告、代執行と一連の手続を履践しているところから見れば、その訴願は代執行命令が発せられた後になされたことが窺知できる。
以上の諸事情を勘案すれば原告に対する被告の代執行は行政代執行法第二条の要件を具備し何等の違法がないことに帰するから、原告の本訴請求は失当であるのでこれを棄却することとし訴訟費用の点について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 御園生忠男 黒川四海 大前邦道)